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2016年 「花粉症の症状と内科での治療について」 – まつもとクリニック 松本 哲宜 先生

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花粉症の症状と内科での治療について、まつもとクリニックの院長 松本 哲宜 先生にお話しを伺いました。

最初に2016年の花粉動向について教えていただけますか?

NPO法人 花粉情報協会の予測によりますと、2016年の春の「スギ・ヒノキ花粉飛散総数」は、東北北部、関東南部、北陸以外の地域は2015年を上回り、特に近畿から九州にかけては前年の2倍から3倍になりそうです。去年は花粉飛散量が少なかったので、比較すると今年はかなり多くなりますね。

スギ花粉の飛散開始時期ですが、今年の冬はエルニーニョの影響があり暖冬の見込みなので、例年よりも早くなるとのこと。九州、中国、四国はだいたい2月上旬、関東から東海、近畿にかけては2月中旬、東北南部から北陸では2月下旬から3月上旬との予想です。

アレルギーと花粉症について教えて下さい。

アレルギーからお話ししますね。免疫という言葉を聞かれたことがあると思いますが、体の中には害となる細菌やウイルスなどを「異物」と認識して殺菌、無害化しようとする「免疫機能」というものが備わっています。この「免疫機能」が通常なら反応しないスギ花粉や、ハウスダスト、ペットの毛などに対して反応を起こし、体に不調を来してしまうことを「アレルギー反応」と呼んでいます。そしてこのアレルギーの原因となる物質をアレルゲンといいます。

アレルゲンを吸い込むことで、鼻水、鼻づまり、くしゃみなどの症状が出るのが「アレルギー性鼻炎」、アレルゲンが眼に入ることで、眼の痒み、涙、眼の充血、目やになどがおきるのが「アレルギー性結膜炎」です。つまり、花粉がアレルゲンとなってアレルギー性鼻炎や結膜炎を起こすことを、花粉症と呼んでいるのです。

花粉症患者の増加という話を耳にしますが、アレルギー体質の方が増えているということなのでしょうか?

そうですね、アレルギー体質の方は増えています。 たとえば花粉について言えば、日本には昔からスギやヒノキはありましたが、太平洋戦争以前には花粉症の人はほとんどいませんでした。戦後、高度経済成長の時期に花粉症患者が増えてきますが、原因としては

●建築材料として、林業でスギやヒノキが大量に植林された。

●自動車の排気ガスや工場からの煤煙で大気が汚染され、大気汚染物質に花粉が付着することでアレルギー反応をおこしやすくなった。

●アルミサッシなど昔と比べて住宅の密閉性が向上し、アレルゲンが屋内に溜まりやすくなった。

などがあげられます。

また最近のアレルギー患者の増加については諸説あるのですが、花粉については、不況や和風建築の減少によってスギ・ヒノキの採伐量が減り、年老いた樹木が子孫を残そうとして花粉を大量に放出するようになったのではと言われています。最近問題になっている中国からの黄砂・PM2.5の飛来が増えたことも悪影響としてはありうるでしょうね。

アレルギーについて逆説的なものも紹介します。「生活環境が清潔になりすぎたことがアレルギー患者の増加の原因」という説です。清潔な住環境を保ち、アレルゲンと接触しないような生活が良いように思うのが現代の日本では普通の感覚かもしれませんが、ドイツのデータで、田舎で乳幼児の頃から牛や馬など家畜が身近にいるような環境で少しずつアレルゲンに接している方がアレルギー疾患になりにくいという報告があります。

いったんアレルギーを起こしてしまうとアレルゲンに触れないようにしないといけない。けれども、子どもの頃、アレルギーを起こす前から埃や動物といった、いわゆるアレルゲンとある程度接触しているほうが、体がアレルゲンに慣れやすいというわけですね。

同じ花粉症でも花粉の種類によって症状に特徴や違いはあるのでしょうか?

花粉の種類によって症状の違いが起きているのではありません。 「ヒノキはきつい」とか、「ブタクサは…」という話を耳にしますが、花粉の種類で症状がきつくなるのではなく、花粉症の症状は「花粉の量」と「体の反応」に左右されます。「花粉の量」とは患者さんが接触するアレルゲンの量が多いか少ないか、「体の反応」とは患者さんのアレルギー反応が大きいか小さいかということです。ですので、アレルギー反応がそれほど強くないという方でも大量の花粉が飛んだ年には症状が重くでます。

患者さんのアレルギー反応の度合いというのは、RAST検査という血液検査で調べることができます。RAST検査は、「抗原特異的IgE抗体」というアレルゲンに反応する血液中の物質の量を測定する検査です。アレルゲンごとに0~6までのクラス分けがあり、クラスが高いほどアレルギー症状が起きやすいことを示しています。

花粉症患者はどのように花粉症と付き合っていくべきでしょうか?

検査の話の続きでお話しますと、ご自分が、どのアレルゲンで症状が出るのかを把握しておくことが大事です。花粉症の時期には天気予報やインターネット等で「花粉飛散情報」が発信されますので、花粉の飛散量や飛散時期を把握しておき、マスクの着用などのセルフケアや病院を受診するタイミングの判断などに役立てることができます。最近ではスマートフォンのアプリもありましすね。

治療についてですが、花粉症の治療には次の3つがあります。

1)内服薬、点眼、点鼻薬による薬物療法

2)レーザー治療

3)減感作療法

1)については、私のクリニックでの治療の中心ですので後ほど詳しくお話します。

2)は、アレルギー性鼻炎の治療のひとつです。耳鼻科で、鼻の粘膜を焼くことで症状を改善させます。ただ粘膜は再生しますので、治療後にも症状が再発することがあります。また鼻の治療法なので当然ですが、眼の症状には効果がありません。

3)は、数年かけてアレルゲンを少しずつ投与することで体を徐々に慣らしていき、アレルギー反応を起こしにくくする方法です。以前は注射しかなかったのですが、2014年よりスギ花粉症には「舌下免疫療法」が保険で治療が受けられるようになりました。これは舌の裏側に液体を垂らす方法なので、注射のように頻回に通院する必要がなく、自宅での治療が可能です。

効果については3割の人に非常によく効いた「著効」という結果が出ています。私の知人は現在治療中ですが、今までスギ花粉シーズン中はマスクを手放せなかったのに今年はマスクなしでも大丈夫そうだと喜んでいます。

舌下免疫療法は新しい治療として注目されてはいますが、私のクリニックでは行っていません。その理由は次の2点です。

3割がよく効いた「著効」、5割がまあまあましになった「有効」、2割が「無効」というデータがありますので、まあまあ5割と、無効の2割、合計7割の人は舌下免疫療法が終わっても引き続き抗アレルギー剤を飲むことになるわけです。治療に数年かかった上でのコストパフォーマンスをどう考えるかという点がありますよね。結果的に「著効」の3割に入ればうれしいのですが、そこはやってみなければわからないので。

もう一点は様々な花粉やアレルゲンがある中で、スギ以外には効果が無いということです。ですので、超重症のスギ花粉症患者で、春先は生活の質が非常に低下し、不眠や仕事も差し支えるような人が受ける治療だと私は考えています。

3割というのはこれから改善されていくのでしょうか?

どうでしょうね。著効3割・有効5割・無効2割というのは、薬そのものに何らかの改良がなされない限りは割合が大きく変わることはないと思います。

スギ以外の治療が将来出てくることはないのですか?

2015年からダニアレルギーのものが出ています。ただその流れでいつかは ヒノキ も ブタクサ も イネ も…となると、ひとつのアレルゲンに数年かかる治療を長年やり続けるのか?それとも同時にやるのか?という話になってしまうので、そのあたりは非常にややこしい。今の時点ではどうなるかは見当が付きません。

日常生活での花粉症対策・予防について教えて下さい。

花粉が顔や体に付いたままの状態にしているのは良くないので、花粉が付かない工夫、付いても取るような工夫を実行しましょう。

●マスクやゴーグルを着用する。

●コンタクトはしない。

●帰宅時には玄関の外で花粉を払い、家の中に持ち込まない。

●帰宅後に手洗い、うがい、洗顔をし、皮膚に花粉をつけたままにしない。

●窓の開け閉め、換気を最小限にする。

●洗濯物、特に肌着やタオルは室内干しにする。

私も花粉症なので日頃から気をつけています。2月から5月くらいまでは極力窓を開けないようにしていますね。できることは極力やってみることです。 あと私は普段眼鏡をしているのでゴーグルはしていませんが、今後症状がよりきつくなるようなら、オーバーグラスか、眼鏡と顔との隙間が小さくなる花粉症用の眼鏡を作ろうと思っています。

内科での花粉症の治療について教えていただけますか?

鼻炎だと耳鼻科、眼が痒いと眼科、と思われるかもしれませんが、内科でも花粉症の治療を、内服薬、点眼薬、点鼻薬などの薬物療法で行います。私のところでは漢方薬も組み合わせますね。
ただ注意して欲しいのは、ステロイドの使い方です。ごく簡単に言ってしまうと、花粉症関係でステロイドを使って良いのは、点鼻薬と喘息の吸入です。ステロイド内服やステロイド点眼は副作用のことを考えると安易に使わない方が良いと思います。内科の医院などで、花粉症=アレルギー=ステロイドが良く効く、と考えて患者さんに説明もなく漫然とステロイドを処方する医師がいないか心配ですね。私のクリニックで内服ステロイドを処方する場合は、短期間に限定しています。たとえば花粉症が急激に悪化して眼がはれあがるとか、明日が結婚式・面接・受験といった重要なイベントがある場合に限っています。

私は、初めて診察する患者さんの、これまでの治療歴はしっかり確認するようにしています。前の医師の処方をお薬手帳でみると、慢性鼻炎で一年中ステロイドを出されている患者さんも、まれですがおられました。私はアレルギー科で、アトピー性皮膚炎もたくさん診ているので外用のステロイドは使いますけれど、内服のステロイドを一年も鼻炎で処方するというのはありえないと思います。糖尿をはじめ色々な副作用が心配ですから。「症状がきついので、短期間だけ飲み薬のステロイドを処方します」ときちんと説明のあるクリニックは信頼出来ると思います。
ついでにお話ししておくと、アトピー性皮膚炎で使うぬり薬のステロイドは、正しく使えば内服薬のように内臓に副作用を起こすことはありませんのでご安心ください。

内服薬についてこの機会に一緒にお聴きしたいのですが、「薬を飲んだら眠くなって困った」と聞かれることがありますよね。

治療の中心になる抗アレルギー剤の飲み薬でよくある誤解は、「眠い薬はよく効く」というものです。眠くならない薬は効かないと思われがちですが、最近の研究では「眠気の副作用」と「薬の効き目」は無関係と証明されています。私の場合は眠気の少ない新しく改良された抗アレルギー剤を中心に、鼻づまりに効果のあるロイコトリエン拮抗薬、点眼薬、点鼻薬、漢方薬などを組み合わせています。
ポイントとしては、花粉症の薬は早めに飲み始めた方が良いということです。「花粉症初期治療」といって、症状のごく軽い時期から抗アレルギー剤を一定期間のむことで、症状の悪化を防ぐことが期待出来ます。2月中旬頃が初期治療開始の目安ですが、今年は1月でも、「もう症状が出てきました」と来院された患者さんもおられますから、鼻水、眼のかゆみなど出はじめたら早めの受診をお勧めします。

私の方からもひとつ良いですか? 花粉症の受診というとやはり一般的には耳鼻科をイメージされることが多いのかもしれませんが、周りに内科で治療されている患者さんなどいらっしゃったりしませんか?

いますね。私(インタビュアー)の場合は毎年耳鼻科に通っているのですが、身近な人では、家から最寄りの耳鼻科までは少し距離があるという理由で、近くのかかりつけの内科・小児科医院で花粉症のお薬も説明を受けて処方してもらっているという方を知っています。

かかりつけの先生からきちんと説明をもらっているなら安心だと思います。花粉症のお薬は一般的な内科でも処方することができるので。

お薬の話を伺っていて気になったのは、先ほどの内服ステロイドについてもそうですが、患者さんは説明がない限りなかなか自分のお薬についてきちんと認識するのは難しい気がします…

おそらく説明がないと患者さんはわからないでしょうね。先ほど申し上げましたように、私のクリニックに来られて「これはステロイドなので、ずっと飲み続けるのはちょっとまずいですね。」と聞いて、「えーっ、知らなかった。ステロイドとは知らずにのんでいました。」という患者さんもおられますので。

抗アレルギー剤にはステロイドが含まれている「合剤」という薬があるので、この程度ならステロイドが入っていても問題ないと考える医師がいるのかもしれませんね。ステロイドを含む薬を長期内服している時に、突然内服をやめることでも逆に副作用が出ることがあるので、徐々に減量していく必要があります。花粉症治療で、ステロイドを含む合剤の漫然とした長期内服処方は、私は絶対にしません。

 

まとめますと、内科でもお薬を処方できるのですが、説明もなしに「はい、くすり出しときますね」では、症状が改善しないこともあると思いますね。ホームページで花粉症の診療についてひとこと説明のあるクリニックを選ばれるとよいのではないでしょうか。

――――――本日はありがとうございました。

お話を伺った先生:松本 哲宜 先生(まつもとクリニック・京都市左京区

【略歴】

  • 京都大学医学部卒業
  • 平成17年 高雄病院副院長(アレルギー科担当医)
  • 平成21年9月 まつもとクリニック 開業

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