DDまっぷは全国の病院・診療所・歯科を検索できる病院検索サイトです。

2015年 「メンタルヘルスについて」 – 医療法人 秀明会 杉浦こころのクリニック 杉浦 正義 先生

   トップ > 2015年 「メンタルヘルスについて」 – 医療法人 秀明会 杉浦こころのクリニック 杉浦 正義 先生

メンタルヘルスとはどういう言葉なのですか?

メンタルヘルスとは、こころの病気を指す言葉ではなく、「心の健康状態を問う言葉」といえます。こころの病気は、「メンタルヘルス不調(不全、低下)の状態」、あるいは「メンタルヘルスに問題がある」ということになるでしょう。そもそも精神的健康(つまりメンタルヘルス)は、身体的健康に対比して用いられる用語であり、精神的健康が保たれているということは、精神機能が健全に発揮されていることを指します。世界保健機構(WHO)の健康の定義に従うと、「たんに病気でないというだけでなく、身体的にも、心理的にも、社会的にもwell‐beingな状態にあること」となります。精神の健康とは、単に病気ではない(障害されていない)という視点だけでは不十分であり、人格の成長指向性や人間のより望ましい存在様式を包含する積極的な概念であるといわれています。

残業(時間外労働)時間や休日出勤が増えると、必然的に健康への悪影響が出てきます。厚生労働省の『過重労働による健康障害を防ぐために』によると、月100時間を超える残業や、2~6 か月平均の月の残業時間が80時間を超えると、ストレスとなり健康障害のリスクが高まるとされています。

職場のメンタルヘルスの実情について教えてください。

職場において、メンタルヘルスという言葉は、「こころの健康」という意味にとどまらず、もっと積極的に「働く人たちの健康な職場づくりを推進していこう」という意味合いが込められています。これまでの日本の職場では働く人のこころの不調やストレス対策の問題を考えるときに、個々人の「気の持ち方」・「性格やものの考え方」としての側面ばかりが強調され、そのため職場全体としてのストレス対策が後回しにされる傾向がありました。しかし本来であれば、働く人、-人ひとりが自身のストレス状態に気づき、自身で対処できるよう努めるのと同時に、職場での管理監督者が中心となって労働環境の適正化や過重労働の予防、人間関係の調整など、職場のストレス要因の軽減に努める必要があります。

自殺の危険因子であるうつ病患者が全国的に、全世界的に増えてきています。財団法人 社会経済生産性本部メンタル・ヘルス研究所2006年調査結果によると、約6割の企業が“従業員のこころの病は増加傾向にある”と答えています。医療業界でも例外ではありません。医療業界では5%がうつや不安障害の傾向にあると言われています。うつ病を治療し、自殺を食い止め、人々を救う立場にある医療従事者は自らが心身健康であるべきでしょう。そのためよりいっそうメンタルヘルスに留意しなくてはなりません。ぎりぎりの人員配置をしている医療現場では、ひとりでも休職者が出ては診療に大きく影響してしまいます。

教職者の仕事は人格の形成期にある人間に対して、教育を通してかかわる専門職です。人格と人格のぶつかり合いが教職者の仕事の中心であり、己の人格を問い続けることが教職者としてのアイデンティティとなります。人の人格はその人の生活に現れるため、その人の人格に触れることは、その人の生活全体を考えることにつながります。他人の生活を考えることは、自分の生活を意識することです。自分の生活を意識することは、自分自身の生い立ち、家族、家庭環境、価値観、人生観、死生観、哲学を感じることです。
物事を完全に割り切ることができれば、そこに葛藤は生じないです。葛藤がなければ、精神的ストレスはないです。しかし、教職者の仕事は人と人とのかかわりが中心です。人間関係は通常、白と黒に割り切ることができないため、必ずそこに葛藤が生じ、それが精神的ストレスになります。教職者に“こころのケア”が特に必要な理由はここにあります。

ストレスチェック制度について教えてください。

この制度は、医師・保健師などによるストレスチェックの実施を事業者に義務付けること(ただし、従業員50人未満の事業場については当分の間努力義務)、事業者は、ストレスチェックの結果を通知された労働者の希望に応じて医師による面接指導を実施し、その結果、医師の意見を聴いた上で、必要な場合には、適切な就業上の措置を講じなければならないこととすること、を柱としています。

ストレスチェックの結果を入り口として、労働者をその適性にあった仕事に配置する事で労働者のパフォーマンスの発揮を期待することが導入された背景としてあります。ストレスチェックはその実施が目的ではなく、ストレスチェックを入り口として職場のメンタルヘルス管理体制の充実を図り、労働者の過労死、過労自殺を未然に防ぐことも背景としてあります。

具体的にどういったケアを行うのですか?

厚生労働省は平成12年8月9日付の『事業場における労働者の心の健康づくりのための指針』に基づき4つのケアを推進する体制を企業に求めています。「セルフケア」とは自分自身の心の健康を守るということですが、管理監督者には、自身のセルフケアに加えて部下の心の健康を守ることも求められます。これを「ラインケア」といい、勤労者のメンタルヘルスを推進するためにとても重要です。

健康的な職場づくりを推進するためには、職場におけるメンタルヘルスケア対策が必要ですが、これは予防医学の考え方に倣い、一次予防、二次予防、三次予防に分けることができます。

「一次予防」とは、「メンタルヘルス不調にならないために、個人と職場が取り組む対策」のことです。自分の健康は自分で守るというのがまず基本であり、そのためには、セルフケアとして自身のストレスマネジメントを行うことが必要です。また、ストレス要因(ストレッサー)の軽減については、個人のストレスマネジメントだけではなく、職場環境という外的要因を変えていく必要もありますが、これは管理監督者の役割(ラインケア)の1つです。

「二次予防」とは、「メンタルヘルス不調者を早期に発見し、早い段階で治療に結びつけるための対策」のことです。特にこれはラインケアにおいて重要であり、産業保健スタッフや事業外資源との連携も大切です。

「三次予防」とは、「病気になってしまった勤労者に対して、職場と本人の双方の不利益が最小限となるように取り組む対策」のことであり、職場復帰支援(リワーク支援)が中心となります。ここでも、ラインケアが中心となり、産業保健スタッフや事業外資源との連携が必要となります。

これらの3つの予防は健康な職場づくりを推進するための目標であり、3つの予防の実践・達成のためには先ほどあげた4つのケア( セルフケア、ラインケア、事業所内産業保健スタッフによるケア、事業所外の専門家・機関を活用したケア)を推進していくことが必要です。

そして、この4つのケアを推進するためには、これらを理解し、実践を可能にするための教育というものも必要です。企業においてメンタルヘルスケア体制を整えようとする場合、それを担う部署が、メンタルヘルス教育を足がかりとしてその企業内でさまざまなレベルでの教育の機会を設け、メンタルヘルスの必要性を浸透させていくという方法がとられます。

セルフケアにはどんなものがありますか?

私たちは、これらのストレスに対して緩和するべくいろいろな対応を試みます。ストレスに対処する行動をストレスコーピングといいます。ストレスコーピングの分類としては、ストレスそのものに対する働きかけによってストレスをなくしてしまう方法、ストレスに対して自分自身ならびに周囲の人の協力を得て解決する方法、ストレスによって発生した自分の不安感や怒りなどの感情を周囲の人たちに聴いてもらうことによって発散する方法などがあります。

いずれにしても自分で対応しきれないストレスに対しては、自分ひとりで解決するよりは、自分の力と周囲の人たちの力を合わせて、よりよい解決の糸口を見出すことが重要です。また、日頃からストレスが発散できるよう、趣味や生きがいとなるものを持つことも必要です。そして、問題解決のために協力してもらえる人間関係の構築も重要となります。窮地に陥った時に相談できる人を持つことは、極めて重要なことです。私たちは人と人が作ったものから、そして自然からもストレスを受けますが、一方でそれらはストレスを癒す大きな存在でもあるのです。

医療機関を利用した事業所外のケア活動にはどんなものがありますか?

事業所外のケア活動として、リワーク支援があります。リワークとは職場復帰(return to work)のことです。リワークプログラムでは、毎朝決まった時間に通うことによる通勤訓練や、職業能力回復訓練、うつ病の再発予防教育などが行われます。ひとりで行うリハビリに不安を感じる場合は、主治医に相談して、リワークプログラムを紹介してもらい、参加するとよいでしょう。

リワーク支援は、精神疾患等により休職中の方に対し、復職に向けてのウォーミングアップを行うことで、円滑な職場復帰を支援し、職場への助言などを行うことで、職場適応と就労の継続をはかります。

職場復帰支援(リワーク支援)について詳しくはこちら>>

勤労者以外でメンタルヘルスに気を付けなければいけない人は?

近年増えた女性の精神障害は、手首自傷(リストカット)など激しい行動化を呈する境界性パーソナリティ障害、摂食障害、セクシャルハラスメントの被害による心的外傷後ストレス障害(PTSD)、夫による暴力(ドメスティックバイオレンス:DV)、アルコール症、過呼吸症候群、児童虐待などです。また、うつ病とパニック障害は女性に有意に多い障害です。

子どもでは、これまでみられなかったタイプの犯罪、学級崩壊、いじめの横行などは今も報道をにぎわせています。減少傾向にあるといってもまだ少なくない不登校、ひきこもりの相談でクリニックを訪れる方は多いです。子どものケースでは発達の問題を無視することができません。発達の障害が重いものが必ずしも適応の障害が大きいとはいえないところがあります。

現代の子どもたち(青年を含む)は「思い描いている自分」か、その対極にある「取り柄のない自分」と自分に分極し、本物の自分である「等身大の自分」が消失しています。「思い描いている自分」が機能しているうちは何とか過ごすことができても、現実の思い通りにならない事態に直面すると、一挙に 「取り柄のない自分」に転落します。そのときの反応はキレると表現される怒り、ひきこもり、抑うつ状態であり、「自己愛の三徴」と呼ばれています。

これからの日本におけるメンタルヘルスケアは?

まずはメンタルヘルスケアとは何か、と意識を持ってもらう事が重要かと思います。まだまだ現代の日本ではこのような意識を持っている人が少ないように感じます。まずはこのストレスチェック制度が施行されることをきっかけに、職場を挙げて多くの方がメンタルヘルスケアに対して意識・認識を持ってもらいたいと思います。



――――――本日はありがとうございました。

お話を伺った先生:医療法人秀明会 杉浦こころのクリニック 杉浦 正義 (すぎうら まさよし)先生

  • 医療法人秀明会 杉浦こころのクリニック
  • 大阪府豊中市新千里東町1-5-2セルシービル3F
  • 千里中央駅直結
  • 06-6835-3333
  • 院内処方
  • メンタルヘルス

DDまっぷ特集

ページの先頭に戻る